教員の対話力を高めるトレーニング方法7選
- 山中信幸
- 2025年5月30日
- 読了時間: 15分

▶︎1. 教員に求められる対話力とは?

1.1 教育現場で対話力が重視される理由
教室は、学力だけでなく人間関係が築かれていく場所です。その中心にいる教員にとって、「対話力」は欠かせないスキルです。ただ話す、聞くという行為にとどまらず、「伝わる」「感じ取る」ことが求められるからです。
今の教育現場では、知識の伝達者から“関係性のデザイナー”へと教員の役割が進化しています。
たとえばこんな問いかけ、日常によくありますよね。
「この子、最近元気がないんですが、何か心配なことがあるんでしょうか?」
保護者からこんなふうに聞かれたとき、どう返答しますか?
素直に「特にないと思いますよ」と答えるだけでは、信頼関係は生まれにくいものです。
ここで大事なのは、相手の気持ちに寄り添った返答をすること。
「何かおうちで気になる様子があったのかもしれませんね。教室では、少し元気がない日もありましたが、気をつけて見守ってみます」 そんなふうに、保護者の不安をくみ取る返答ができれば、会話は信頼関係を築くきっかけになります。
こうした「相手の背景を想像して、気持ちに応じた返し方」ができること。
これが、対話力が教育現場で重要とされるゆえんです。
対話力がある教員は、生徒との関係はもちろん、保護者、同僚との関係もスムーズになります。学級の空気が柔らかくなり、子どもたちが自分の思いを安心して話せるようになることも多いんです。
1.2 対話力が不足するとどうなるか?
対話力が十分でない教員は、教室内外でさまざまな“見えないズレ”を生みやすくなります。教員自身は「伝えたつもり」でも、生徒や保護者にとっては「伝わっていない」ことがよくあるからです。
特に、信頼関係の構築においては、言葉のやり取り以上に“伝え方”と“受け取り方”が問われます。
こんなやり取りを想像してみてください。
生徒がプリントを提出し忘れたとき、教員が「何回言わせるの!」と叱責。
確かに注意は必要です。でも、その言葉が相手にどう響くかを考える余裕がなかったとしたら…。 生徒は萎縮し、今後自発的な行動が減るかもしれません。さらには、「この先生には話しかけづらい」と感じるようになります。
よくある失敗はこんなケースです。
① 伝える内容が一方通行:「私が正しい」と思いすぎて対話にならない
② タイミングを誤る:感情的なまま注意して、相手の話を聞く前に決めつけてしまう
③ 相手の意図を汲み取らない:言葉の裏にある感情や背景に気づかない
これらの失敗は、日々の小さなすれ違いを積み重ね、大きな関係性の断絶につながることがあります。
対話力が不足していると、保護者対応にも影響が出ます。
たとえば進路相談で「この成績では難しいですね」とだけ伝えると、「冷たい先生だな」と受け取られてしまうことも。大切なのは、現状だけでなく希望への道筋を一緒に考える姿勢です。
対話とは、単なる言葉の交換ではなく、関係性を育む“プロセス”です。 だからこそ、丁寧に磨く必要があるのです。
1.3 対話力が高まることで得られる効果
対話力が磨かれると、教室の空気が確実に変わります。教員と生徒の距離が縮まり、授業も日常のやりとりも、よりスムーズに流れるようになります。
対話力が高い教員ほど、生徒からの信頼を集めやすく、学級の安定にもつながります。
たとえば、こんなシーンを想像してみてください。
朝の会で、ある生徒が「週末は家族ででかけました」と報告。
それに対し教員が、「どこに行ったの?」「楽しかった?」と返す。
このように、相手の発言に興味をもって返すことで、子どもは「聞いてもらえてる」という安心感を得ます。それが自己表現への意欲を高め、教室全体が活気づいていきます。
対話力が高まると得られる具体的な効果は以下のとおりです。
信頼関係の構築が早まる
→ 生徒が相談しやすくなり、問題の早期発見・対応が可能に
トラブルの予防と対応がスムーズに
→ すれ違いや誤解が起きにくくなり、対応も落ち着いてできるように
保護者との関係が良好に
→ 話しやすさが安心感を生み、協力を得やすくなる
学級の雰囲気が安定する
→ 生徒同士の対話も活発になり、互いを尊重し合う空気が広がる
さらに、教員自身の精神的な余裕も生まれます。対話が円滑になると、無駄な衝突や誤解が減り、毎日のストレスも軽くなるからです。
言い換えれば、対話力は“関係性を動かすレバー”のようなもの。 教員の言葉ひとつで、教室の温度は変わっていくのです。
▶︎2. 対話力を構成する3つのスキル

教員にとっての対話力とは、ただ話す・聞くという技術ではありません。信頼を築き、関係性を動かす“質の高いやりとり”を可能にする力です。
その根幹をなすのが、以下の3つのスキルです。
2.1 傾聴力:子どもの声をしっかり受け止める
傾聴とは、耳で聞くだけでなく、相手の意図や感情まで“心で受け取る力”のことです。
表面的な言葉の裏にある「本当の気持ち」に目を向ける姿勢が問われます。
こんなやり取り、よくありますよね。
子ども「今日、授業おもしろくなかった…」
教員「え?何がつまらなかったの?」とすぐに問い返してしまう。
これ、ありがちな“反射返し”です。
本当は、「そうなんだ、何か気になることがあった?」と気持ちに寄り添う一言があれば、その後の会話の深さが変わってきます。
傾聴力の高い教員は、子どもたちに「この先生なら話せる」という安心感を与えられます。それが信頼形成の出発点になるのです。
2.2 表現力:わかりやすく、伝わる話し方
伝える力も、対話には欠かせません。話す内容が的確でわかりやすいだけでなく、相手の理解度に合わせて柔軟に言葉を選べるかどうかがポイントです。
たとえば学級活動の場面で、
教員「もっとみんなが意見を言えるようにしましょう」とだけ伝えるのではなく、
「ひとりひとりの話に耳を傾け合おう。たとえば○○さんのように、短くてもOKだから意見を出してくれると嬉しいよ」
こう伝えるだけで、空気は大きく変わります。
“指導”から“対話”にスイッチを切り替える工夫が求められます。
また、感情的になりそうな場面では、「私はこう感じたよ」と自分の感情を主語にした表現に変えるだけで、印象はぐっと柔らかくなります。
2.3 共感力:感情に寄り添い、信頼を深める
共感力とは、相手の気持ちを「わかるよ」と受け止める心の姿勢。
たとえばこんなシーンを考えてみましょう。
子どもが泣きながら「給食残したら怒られると思って…」と打ち明けたとき、
「大丈夫。無理に食べなくてもいいよ」と言うだけでなく、
「嫌だったのに、ちゃんと来てくれたんだね。ありがとう」と返せたらどうでしょう?
その瞬間、子どもは“受け止められた”という感覚を得て、安心と信頼が芽生えます。
共感力は言葉の選び方ひとつで伝わります。
教員が共感的であるほど、子どもたちは自分の気持ちを安心して表現できるようになります。それは、クラス全体の雰囲気を優しく、温かく変えていきます。
この3つのスキルは、それぞれが単独で機能するのではなく、互いに作用し合いながら「対話力」という総合力を高めていきます。
▶︎3. 教員のための対話力トレーニング方法

対話力は、経験と意識的なトレーニングによって高めていくことができます。特に教員は、多様な人間関係の中で日々コミュニケーションを重ねているため、小さな工夫の積み重ねが大きな変化につながります。
ここでは、傾聴力・表現力・共感力という3つの力を育てる具体的なトレーニング方法をご紹介します。
3.1 傾聴力を鍛える具体的な練習法
傾聴力を高めるには、「耳」よりも「意識」を鍛える必要があります。表面的に聞くのではなく、“相手が伝えようとしていること”に焦点を合わせる練習が有効です。
主なトレーニング法はこちらです。
① 3秒ルールを設ける
相手が話し終えてもすぐに返さず、3秒間沈黙してから返答することで、言葉の裏にある意図を整理できます。
② オウム返し+要約
「〇〇ってことかな?」と一度自分の言葉でまとめ返すことで、相手の真意を確認しながら聞く習慣がつきます。
③ 感情のラベリング
話の内容だけでなく、「今ちょっと緊張してたね」「すごく楽しそうだね」と相手の感情を言語化して返す訓練です。
ちょっとした時間に同僚とロールプレイをするだけでも、反射的な傾聴ではなく、意識的に“感じる”聞き方が習得できます。
3.2 表現力を磨くトレーニング方法
表現力のトレーニングでは、「相手に伝わる話し方」を中心に磨いていきます。大事なのは、内容の正しさよりもわかりやすさと配慮のバランスです。
① ワンメッセージ法
伝えたいことをひとつに絞り、30秒以内で簡潔に伝える練習をします。子どもに指示を出すときに特に有効です。
② “私”を主語にする伝え方
「あなたが悪い」ではなく、「私はこう感じた」と言い換えることで、攻撃的にならず感情を伝えられるようになります。
③ ポジティブ変換の習慣化
「遅れないで」ではなく「時間通りに来てくれると嬉しい」など、否定語を使わずに伝える練習も効果的です。
たとえば授業中、発言が少ない生徒に対して「もっと意見を出して」ではなく「一言だけでも教えてくれると嬉しい」と声をかけるだけで、心理的なハードルは大きく下がります。
3.3 共感力を育てる日常的な取り組み
共感力は一朝一夕に育つものではありませんが、毎日のふるまいや言葉選びの中で少しずつ磨かれていきます。
① 日々“感情に気づく”習慣
子どもたちの表情や声のトーンに敏感になることで、背景にある感情を察知できるようになります。
② 感情をことばにする練習
日記やメモに、自分や相手の感情を言葉で記録しておくことで、言語化能力が高まります。
③ 「共感返し」の型を覚える
「それ、嬉しかったね」「そっか、つらかったね」と、共感の言葉を先に返すクセをつけることで、無意識のうちに“共感から入る対話”ができるようになります。
たとえば、ある子が「今日、体育で転んで最悪だった」と言ってきたら、
「痛かったね、よく頑張ったね」とまず気持ちに共感し、そこから「どうやって立ち直ったの?」と話を広げる。
そんなやりとりが、子どもの自己肯定感を育てる栄養になります。
対話力の3つの柱は、日々の会話の中で何度でも試すことができます。
重要なのは、完璧を目指すことではなく、「伝え方」と「聞き方」を磨き続ける習慣を持つこと。
▶︎4. 教員が授業で活用できる対話力トレーニング実践法
トレーニングは机上の理論だけでは完結しません。
教員としての対話力は、教室という“実践の場”でこそ磨かれるものです。日常の授業、学級経営、そして保護者・同僚とのやりとり。すべてがトレーニングのチャンスです。
ここでは、現場で実際に使える対話トレーニングのアイデアを紹介します。
4.1 授業中にできる簡単トレーニング
授業中の何気ないやりとりの中に、対話力を育てるヒントはたくさんあります。
① 「問い返し」を意識する
子どもからの発言に対して「どうしてそう思ったの?」「他に考えた人いる?」と返すことで、考えを深める対話が生まれます。
② 毎時間“対話の時間”を5分設ける
授業の導入やまとめに、生徒同士が意見を交わす時間を設けるだけで、クラスの空気は変わっていきます。
③ 2語コメント法の活用
子どもが意見を言った後、「面白い」「なるほど」など短く肯定する“2語コメント”を習慣化することで、発言しやすい環境を作れます。
たとえば、国語の授業で「この登場人物はどう感じたと思う?」と聞いた後、返答に対して「いいね、その視点」「お、そう来たか」と返すだけで、教室は一気に“対話モード”に変わります。
4.2 学級経営で活きる対話の工夫
学級経営の土台は、信頼とコミュニケーションです。対話力を活かす場面は、授業以外にも多く存在します。
① 朝の会・帰りの会での「ひとこと共有」
「今日の気分をひとことで」「○○で嬉しかったこと」など、自分の気持ちをことばにする機会を日常に組み込むことが大切です。
② 週1回の“話し合いタイム”
学級の小さな課題(掃除・給食の当番など)をテーマに、生徒同士で対話させることで、問題解決力と協働性も育ちます。
③ 「ありがとう掲示板」の設置
友だちや先生への感謝を書いて貼ることで、感情を言語化する文化が根づき、共感力も高まります。
生徒にとって「自分の声が届く」と感じる空間は、安心と自立のベースになります。教員がまず聞く姿勢を見せることで、クラス全体が自然と変わっていきます。
4.3 保護者や同僚との対話にも効果的
対話力は子どもとのやりとりだけにとどまりません。
保護者対応や職員間のコミュニケーションにも、影響力は大きく広がります。
① 保護者面談での“共感ファースト”
たとえば「最近、勉強に身が入らないようで…」という相談には、 「気になりますよね」「私も同じように感じていました」とまず共感から入ることで、その後の提案がスムーズになります。
② 職員室での“対話の余白”を意識
忙しい中でも、「最近どう?」「あの件どう感じた?」と軽い言葉を交わすだけで、信頼関係が築かれていきます。
③ 指摘より共有を
注意点や改善点を伝える際も、「どうしたらよりよくなるか、一緒に考えませんか?」という共創の姿勢が、対話の質を高めます。
たとえば、他の教員と行事の運営について意見が合わなかったとき、「その考え、どういう意図があるんですか?」と聞き返すことで、対立ではなく対話が生まれます。
教室は、最も身近な“対話のトレーニングルーム”です。 少しの工夫と意識で、日々の指導がそのままスキルアップの場になります。
▶︎5. 教員の対話力トレーニングでつまずきやすいポイントと改善策
対話力のトレーニングを始めてみたものの、「うまくいかない」「続かない」と感じることも多いものです。原因は、技術の不足ではなく、意識のズレや習慣化の難しさにあります。
ここでは、教員が実際につまずきやすいポイントと、その解決策を丁寧に整理していきます。
5.1 「聞いているつもり」がすれ違いを生む
教員は普段から多くの会話をしていますが、“話を聞く”という行為が無意識のルーティンになっていることがあります。
「聞いているつもり」で、実は“流して”しまっているケースは少なくありません。
たとえば、こんな場面。
生徒「先生、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
教員「あとでね、ごめん今忙しくて」とそのまま次の作業へ。
ここでの「あとで」が具体的にいつなのか、生徒には伝わっていません。結果、“聞く気がない”という印象だけが残ることもあります。
解決策としては、
① アイコンタクト+うなずきで“聞いている”を可視化する
② 話の区切りごとに「それで?」などの合いの手を入れる
③ 忙しい時は「あと10分後なら大丈夫」と具体的に伝える
これらの工夫で、受け止める姿勢が自然と伝わり、信頼の積み重ねにつながります。
5.2 伝えることに集中しすぎて共感不足に
「ちゃんと伝えなきゃ」という気持ちが強すぎると、相手の反応を受け取る余白がなくなってしまいます。
たとえばこんなケース。
教員「このルールは守らないといけません」 生徒「でも…」と何か言いかけたのに、遮って説明を続けてしまう。
これは、意図せず“理解より主張が優先”された結果です。
対策としては、
① 相手の発言の“間”を見逃さず、言い切らせる意識を持つ
② 指導の前に「どう思った?」と感じたことを聞く
③ 結論を急がず、共感から始めるクセをつける
「それ、つらかったね」と先に気持ちに寄り添えば、伝える内容も受け取られやすくなります。 対話は“理解してから伝える”が鉄則です。
5.3 トレーニングが長続きしない原因と対策
意欲的に始めた対話力のトレーニングも、「忙しくて後回し」「思うように成果が出ない」と感じて、途中でやめてしまうことがあります。
主な原因は以下の3つです。
① 結果を急ぎすぎて変化が実感できない
② 習慣化の仕組みがなく、やりっぱなしになる
③ 一人で取り組むため、客観的なフィードバックがない
これを防ぐには、以下のような工夫が有効です。
小さな目標設定:「今週は“共感返し”を3回使う」など、具体的に
トレーニングログをつける:日記やメモで気づきを記録する
同僚との共有タイム:「最近こんなやりとりがあった」と話し合う時間を持つ
また、毎日の会話で使ったフレーズを1日1つだけ振り返るだけでも、効果は着実に積み重なっていきます。
トレーニングは“努力”ではなく、“習慣”に変えたときこそ、真の力になります。
▶︎6. まとめ:対話力は教員の一生の財産
教員としての対話力は、授業の進行や指導力を支えるだけでなく、人と人との関係性を育てる“見えない力”です。学級の空気、子どもの安心感、保護者の信頼。どれも言葉の使い方、耳の傾け方ひとつで変わります。
対話力はスキルであると同時に、人生を通じて磨き続ける“人間力”でもあります。
6.1 今すぐ始めたい対話力の習慣づくり
「今の自分にできることは何か?」
対話力を高めたいと感じたその瞬間から、トレーニングは始められます。
まず取り入れたいのは、“小さな対話習慣”を日常に差し込むこと。
朝、子どもに「おはよう。今日はどんな気分?」と聞く
同僚に「最近忙しそうだけど、大丈夫?」と一言かける
保護者に「何か気になっていること、ありますか?」と尋ねる
こうした些細なやりとりが、信頼の種をまきます。
難しい理論よりも、まずは行動。意識的にひとつ“聞き方”や“返し方”を変えるだけで、周囲の反応が驚くほど変わることがあります。
6.2 日々の積み重ねが未来の信頼関係に
対話力は、今日鍛えたから明日結果が出るものではありません。
けれども、今日の一言が、数ヶ月後の信頼につながっていることは、よくあります。
日々の積み重ねが、以下のような変化を生みます。
子どもが安心して悩みを話すようになる
保護者から「話しやすい先生ですね」と言われるようになる
職員間の連携がスムーズになり、働きやすくなる
これらはすべて、日々の言葉の選び方、耳の傾け方の積み重ねの結果です。
対話力とは、一過性のスキルではなく、教員人生を通じて使い続ける“財産”なのです。
明日の授業から、ひとつだけでいい。
いつもの返答に、1秒の間と1語の共感を足してみてください。 それが、未来の関係性を変えていく第一歩になります。
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